なぜウミガメのスープは無理がある答えなのに拡散したのか? そして納得感がなくても良い理由

水平思考クイズの代表的な問題といえば『ウミガメのスープ』です。

あまりに有名すぎて水平思考クイズのことを「ウミガメのスープ問題」と呼ぶほどになっています。

ジョンソン・エンド・ジョンソン製ではない絆創膏も「バンドエイド」と呼ぶのと同じように、固有名詞が一般名詞化している感じですね。

しかし、この『ウミガメのスープ』という作品は、あまり良い問題ではないですね…

理不尽というか、無理があるというか…

(余談ですが当サイトでもオリジナルのウミガメのスープ問題をたくさん載せているので興味のある方は解いてみてください)

『ウミガメのスープ』はなぜ無理があるのか

一応、『ウミガメのスープ』の内容を記載すると以下の通りです。

男はレストランに入り、メニューから「ウミガメのスープ」頼んだ。それを一口食べた彼はレストランを飛び出し、持っていた拳銃で自殺してしまった。
引用元:『ポール・スローンのウミガメのスープ』

そして回答が

かつて男は仲間や家族と海で漂流し餓死寸前となった。
仲間たちは衰弱死した他の仲間の肉を食べることにしたが、男は頑なに拒否した。
見かねた仲間が「さっきつかまえたウミガメの肉でスープを作ったから飲んで」と騙して仲間の肉を食べさせた。
それが美味だったので無事に救助された後で再び食べたいと思ってレストランへとやってきた。
そのスープの味が漂流中に飲んだスープものと違っていたことで、自分は衰弱死した息子の肉を食べていたのだと気がつき自殺した。
引用元:『ポール・スローンのウミガメのスープ』

やはり無理のあるストーリーです…。納得感がないんですよね。

問題として出す以上はその答えに納得感がないと、こじつけ感が強くなってしまうのです。

「私は今頭の中で何を考えているでしょうか?」と聞いてるのと同じ

なぜこのストーリーに納得感がないかというと、「その解答である必然性」がないからです。

例えば、「男は自分が世界一おいしいウミガメのスープを作れると信じていたが、今飲んだスープのほうが美味しかったのでショックで自殺した」でも良いのです。

「可能性としてあり得る他のストーリー」と「本来の回答とされるストーリー」を比べたとき、「論理的な度合い」に差がないのです。

そのため、出題者の思い付きでなんでも答えに出来てしまうじゃないか!となってしまうのです。

たとえばこれが、「男はウミガメのスープを一口飲んで激怒した。なぜか?」という問題だったとします。

その答えが

レストランで注文したウミガメのスープに虫が入っていたので作り直すように言った。
男はスープを返す前にこっそり塩を入れておいた。
再び運ばれてきたスープがしょっぱかったので、作り直さずに最初に出した虫入りスープを再び持ってきただけと分かり激怒した。

であれば納得感があるのではないでしょうか?

少なくとも「男は自分をこっぴどく振った女との最後のデートで飲んだのもウミガメのスープだったことを思い出して激怒したのだった」よりは「論理的な度合い」が高いですから納得感があります。

つまり『ウミガメのスープ』は出題者が「私は今頭の中で何を考えているでしょうか?」と質問しているに過ぎないのです。

だから答えを聞いても納得感がないですし、無理があるだろ、と思ってしまうのです。

水平思考クイズなんだから納得感がなくて良いのである

しかし、『ウミガメのスープ』をはじめとする、水平思考クイズはそれで良いのです。

つまり、回答者がスッキリしない、納得感がないものが答えであっても良いのです。

なぜなら水平思考クイズとは、その名の通り、「水平思考(lateral thinking)」を鍛えるためのものだからです。

水平思考とは論理的、垂直的な考え方に捉われずに、自由かつ創造的に新しい視点やアイデアを見つけ出すための思考法です。

意図的に非論理的な思考をしたり、突飛なアイデアを考え出すことが奨励されるのです。

ビジネスの場や人間関係においては、論理的に説明できない出来事のほうが多かったりします。

人間は感情の動物ですから当たり前です。

そのような場面において、水平思考を用いることで、答えのヒントが見つかるのです。

つまり、水平思考クイズの答えは、論理的でないことが求められるのです。

そういった意味で、『ウミガメのスープ』は水平思考クイズとして、正しい問題といえます。

事前の説明があれば納得いかないことに納得したはず

そもそも、なぜ多くの人が『ウミガメのスープ』に納得がいかないことに不満を感じているのでしょうか?

それは不可解なシチュエーションを問題として出す以上は、推理問題のように納得できる答えが当然あるのだろうと期待しているからです。

最初から水平思考クイズはそういうもの、と説明されていれば納得がいかない答えでも納得したでしょう。俳句に「オチは?」とツッこまないのと同じです。

しかし、『ウミガメのスープ』は問題だけが先行し、多くの人が本来の用途を知る機会がなかったために、納得のいかない答えを不満に感じてしまったということです。

また、その後に多くのクイズ作家が送り出した水平思考クイズが、納得感のある答えのものが多いことも原因でしょう。

それによって、『ウミガメのスープ』のストーリーの「論理的でない感」がより強調されてしまったのです。

『ウミガメのスープ』が「くだらない(怒)」からこそ広まった

とはいえ、水平思考クイズの代表的な問題が『ウミガメのスープ』だったおかげで、ここまで拡散されたともいえます。

まずタイトルがキャッチーですし、問題文のミステリアスな感じも、何か衝撃的な結末がありそうに感じさせます。

これだけでも人間の興味を惹くものですが、実は答えが「くだらない」と怒りを感じさせるものだったことも、重要な要因だった可能性があります。

マサチューセッツ大学のマシュー・D・ロックレイジ博士らの研究によると、新作映画がヒットするかどうかは、初期段階のクチコミサイトの内容を見れば予測できることが分かっています。

たとえ批判的な内容であっても感情的な感想が多く書かれている映画ほどヒットするのです。

なぜなら強い感情が生まれた出来事は記憶に残りやすく、他者との会話でも話題に出しやすくなるからです。

「この前見た映画がムカつくほどつまらなくてさ~」という話をしやすくなるということです。

そして「どれくらいつまらないか見てみよう」と思う人はけっこういるのです。

これと同じことが『ウミガメのスープ』でも起こったのかもしれません。

答えに納得のいかなかった人が「ウミガメのスープっていう、くだらない問題があるんだけど」と友達との会話に出したということです。

こう言われたら、多くの人はどんなものか知りたくなるのです。

そして実際に「くだらない(怒)」と思った記憶が残り、また他の友達に出題したということが繰り返され、拡散したのではないかということです。

『ウミガメのスープ』が拡散したこと自体が水平思考クイズみたいなものなのです。

<参考文献>
・ポール・スローン, デス・マクヘール. (2004). 『ポール・スローンのウミガメのスープ』.
・Matthew D. Rocklage,et al.(2021).Mass-scale emotionality reveals human behaviour and marketplace success.