高校生クイズ(2024年)の問読みの違和感に気づいた? なぜ「読ませ押し」が出来たのか

今年で44回目を迎える全国高等学校クイズ選手権(高校生クイズ)が2024年9月10日に放送されました。

個人的な見どころは敗者復活戦の「読ませ押し」だったかなと思います。

確定ポイントと読ませ押し

クイズにおいて、問題文のここまで聞けば正解が分かるという部分を「確定ポイント」といいます。

例えば「日本で一番高い山は富士山ですが、二番目に高い山は?」という問題があったとします。

この問題では「二番目(ばんめ)」の「」が確定ポイントとなります。なので早押し問題ではここでボタンを押すことが求められます。

ただし場合によっては「富士山ですが」の「」で押しても正解にたどりつけることがあります。

それは早押しボタンとスピーカーが連携していないケースです。つまりその場で人間が問題を読んでいるケースです。

なぜなら、ボタンとスピーカーが連携していれば、ボタンが押された瞬間に問読みは停止します。(今回の高校生クイズも1回戦はこのパターンでした)

しかし、人間がその場で読んでいる場合は、急に止めることはできませんから、「ピコンッ!」と鳴った後も何文字か読んでしまうのです。

さきほどの問題でいえば「二番目に」の「にば」くらいまでは読んでしまいます。

これによってボタンを押した回答者は、回答権を得た後で、さらに数文字分の問題を聞くことができます。

このようなテクニックを「読ませ押し」といいます。

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敗者復活戦での読ませ押し

今回の高校生クイズでも、読ませ押しが炸裂していました。

「1問3答」形式の敗者復活戦の1問目。

東海道新幹線が停まる駅のうち名前に『新しい』がつく3つを答えなさい」という問題でした。

この問題では「~停まる駅の」まで読まれた時点で一宮高校がボタンを押しました。

まだ確定ポイントには達していないタイミングです。

しかし、「ピコンッ」と鳴った後も、問読みのアナウンサーは「~うち名前に」まで読みました。

そして一宮高校のメンバーは「新横浜、新富士、新大阪」と答えて正解し、1抜けしました。

残り3校が持ったであろう違和感

1問目が終わった時点で、残りの智辯和歌山、四天王寺、松山東雲の3校は、違和感を覚えたはずです。

どのような違和感かというと、「読みすぎではないか?」というものです。

さきほどの問題で早押しボタンが押され「ピコン」と鳴った後も「~うち名前に」まで読むのは、明らかに読みすぎです。

せいぜい「~うち」まででしょう。

しかし、これは後述しますが、問読みをしているアナウンサーのミスではなく意図的なものだったはずです。

そのことに残りの3校も気づいていたのではないでしょうか。

そして、3校のメンバーは、このクイズは読ませ押しのタイミングを争う勝負だという認識を持ったはずです。

この目に見えない心理戦が焦りを生んだと思います。

焦りによる誤答

2問目は「国民の祝日のうち漢字のみで表される3つを答えなさい」という問題。

確定ポイントは「漢字のみ」の「み」です。

しかし、ここを過ぎてもどのチームも押せませんでした。

問題文の途中では意図が読み取れなかったのだと思います。文字で見れば分かりやすい問題ですが、耳だけで聞いていたら、他の可能性も考えてしまうからです。

それでも、「読ませ押しが勝負を決めることを他のチームも分かっている」ということを分かっていますから、早く押さなければという焦りが生じ、冷静な判断力を失ってしまったのだと思います。

四天王寺が確定ポイントを過ぎた「表される」の時点でボタンを押し、そこから先の「3つを」まで読まれたにも関わらず誤答してしまいました。

クイズにおいて、冷静に聞いていれば正解できたであろう問題を落としてしまうことの精神的ダメージは大きなものです。

私はこのとき「きっと四天王寺は次の問題は押すのを躊躇してしまうだろうな」と思いました。

それでも押した

しかし、四天王寺はこの極限状態の中で次の3問目を他の2校に先駆け1番初めに押しました。

日本がゴミの削減のために推進するキーワード『3R』が表す3つの単語を答えなさい」という問題の「~推進する」の時点で押したのです。

そして問題文は「キーワード」まで読まれました。

メンバーが1人ずつ「リデュース」「リユース」「リサイクル」と答えて正解しました。

四天王寺が押した「~推進する」のタイミングは当然ですが確定ポイントではありません。

それどころか、その次に確定ポイントが来るかさえ分からないタイミングです。

それでも勝負に行ったところが、個人的には今回の高校生クイズの一番の見どころでした。

クイズ慣れしている人間なら、答えが3つあるという前提条件の中で「ゴミ削減」「推進」と聞けば「3R」という推理が働くのは自然なことかもしれません。

なので四天王寺のメンバーにとっての、確定ポイントは「~ために推進」の「すいし/」だったのかもしれません。

それでもあの状況であのタイミングで押した瞬間を見たとき「おおっ!」となりましたし、クイズの面白さが詰まったシーンだったと思います。

なぜ敗者復活戦だけ余計に問題を読んだのか?

ところで、なぜ今回の敗者復活戦の問読みをしているアナウンサーはボタンが押された後も長く読んでいたのでしょうか?

反射神経が鈍くて、すぐに止められないのでしょうか?

そんなことはないでしょう。決勝戦の問読みでは、ボタンが押された瞬間にスパッと止めていました。読んでもせいぜい1文字か2文字でした。

それにクイズ番組を担当するのですから、読ませ押しについても知っているはずです。当然、そこにも注意して読むでしょう。

それでもなぜ敗者復活戦だけはすぐに問読みを止めなかったのでしょうか?

それは早く正解をさせる必要があったからです。

今回の敗者復活戦は新幹線が三河安城駅で停車している5分間のみで、4校から2校に絞らなければなりませんでした。

つまり、どのチームも正解せずに5分経過してしまうリスクもあったのです。

そのため、なるべく正解しやすいように余分に読んでいたということです。

おそらく参加していた高校生たちも1問目が終わった後で違和感を覚えつつも、すぐにその意図に気づいたと思います。

そしてそれが余計なプレッシャーも生んだことと思います。

伊沢さんの頃とは変わった

と、ここまで勝手な私の考察を書いてきたのですが、今回の高校生クイズは全体的にとてもバランスの良い構成だったのではないでしょうか?

高校生クイズの特徴の一つとして、その問題傾向が数年おきに大きく変化することが挙げられます。

例えばクイズ界のスーパースター、伊沢拓司さんのいた開成高校が2連覇を達成した第30回(2010年)と第31回(2011年)のあたりは「知力の甲子園」と銘打たれ、難問が多く出題されていた時代でした。

それまでの知力がなくとも「運」や「体力」の要素で勝ち上がれる可能性もそれなりにあった問題構成と異なり、圧倒的な知識量とクイズへの適応力がない学校でないと勝つことが難しいスタイルへと変遷していた時代だったといえます。

当然、このような問題形式は視聴者も置いてけぼりをくらいます。テレビの前で問題を聞きながら一緒に答えるという一般的なクイズ番組の楽しみ方はできません。

そのような視聴者の意見が届いたのか分かりませんが、その後は日本テレビも色々と工夫を凝らし、発想力や地頭力を問うような構成に変えたりしています。

(それでもクイズ研究部があるエリート進学校が有利なのは変わりませんが…。)

必ず出てくる「昔のほうが面白かった」「つまらなくなった」という意見

高校生クイズの面白いところは、その内容が変わるたびに「むかしのほうが面白かった」「つまらなくなった」という意見が出ることです。

運や体力要素の比率もそれなりにあった時代から「知力の甲子園」時代となったときは、「問題が難しすぎてつまらない」という意見が出ました。

その時代が終わると「問題が簡単すぎてつまらない」「実力以外の部分で勝敗が決まるのはかわいそう」といった意見が出ます。

それぞれが自分なりの高校生クイズ像を持っているからなのでしょう。どのような構成に変えても批判はそれなりに出ます。

そんな中でも、今回の第44回大会は知力、体力、チームワーク、さらには時の運といった要素が絡められた、面白い回だったのではないでしょうか?

高校生クイズとアメリカ横断ウルトラクイズが好きな自分からすると、『泥んこ〇×クイズ』があるだけでワクワクしてしまうのですけれどね。

出場した高校生のみなさん、楽しませてくれてありがとうございました!

最後に問題です。この記事の中には重大な間違いが少なくとも一つ含まれています。それはいったい何でしょう?


例題の確定ポイントが間違っている。


【解説】

確定ポイントの説明で「日本で一番高い山は富士山ですが、二番目に高い山は?」の確定ポイントは「二番目」の「に」と書きましたが間違いです。

なぜなら、「日本で一番高い山は富士山ですが、日本で一番高い建造物は?」という問題の可能性もあるからです。

「に」の時点ではその後に「二番目」が続くのか「日本」が続くのか判断することはできません。

ですから「二番目」の「ば」が確定ポイントということになります。

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